毎日頑張っているのに年収が上がらない。「辞めたい」と思う自分は甘いのだろうか
原因はあなたの頑張り不足ではなく、病院という職場の「構造」にある
構造を理解したうえで、「残る」か「出る」かを自分の意思で選ぶ
「病院薬剤師を辞めたい」と検索しているあなたは、きっと甘えているわけではありません。私も病院薬剤師として働いていた頃、同じ気持ちでした。周りは意欲的で、朝は業務開始の30分前には出勤し、勉強会は業務後の時間外。みんな頑張っている。だからこそ「辞めたい自分がおかしいのでは」と思ってしまう。
でも、先に結論を言わせてください。病院薬剤師の年収が上がりにくいのは、あなたのせいではなく、構造の問題です。この記事では、データと私自身の体験から、その構造を解きほぐしていきます。
データで見る:病院薬剤師の年収は本当に低いのか
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」をもとにした各種集計では、薬剤師全体の平均年収はおよそ600万円です。一方、病院薬剤師の初任給は23〜25万円程度、年収ベースで300〜350万円ほどからのスタートが一般的とされています。
さらに指摘されているのが昇給カーブの鈍さです。病院は昇進できる役職のポストが限られており、管理職や専門・認定薬剤師の資格を取らない限り、30代後半以降の大幅な昇給は期待しにくいと言われています。つまり「スタートが低く、伸びも緩やか」。これが病院薬剤師の給与の基本構造です。
私の場合:年収500万円の「中身」
私が病院薬剤師だった24〜25歳当時の年収は500万円くらい。正直、他の病院よりは良かったと思います。ただしその中身を振り返ると、残業代の占める割合が大きかった。月50時間ほどの残業があり、服薬指導の記録を時間外に3時間かけて書く毎日でした。
名誉のために言うと、残業代はきちんと支払われていました。ただ、職場会議では「薬剤部は残業しすぎだ」と言われていたそうです。業務量は減らないのに、残業は減らせと言われる。現場の頑張りで成り立っているのに、その頑張りがコストとして扱われる。ここに、病院薬剤師のつらさが凝縮されていると思います。
なぜ上がらないのか:私が考える3つの構造
① 「善意と向上心」で回ってしまっている
病院には、給与が低くても意欲的に働く薬剤師が本当に多い。朝30分前の出勤も、時間外の勉強会も、誰かに強制されたわけではなく、患者さんと医療のために自発的にやっている人がほとんどです。尊敬すべき文化である一方、経営側から見れば「安くても回ってしまう」構造でもあります。働く側の善意が、待遇改善の圧力を弱めてしまっている。今思えば、会社側・病院経営の側にはありがたい話ですが、勤務者にとってはかなり辛い環境でした。
② 役職の「天井」が見えている
病院で年収を上げる王道は役職に就くことです。ただしポストは限られ、上限も見えています。私のいた病院では、トップである薬局長でも800万円くらいだったと思います。20代で入職して、数十年勤め上げた先の最高到達点がそこ。それより上は構造的に存在しません。
③ 残業代が年収を「盛って」しまう
私の500万円がそうだったように、病院薬剤師の年収は残業代込みで成立していることが少なくありません。見かけの年収はそこそこでも、時間あたりで考えると割に合わない。しかも病院側は残業を減らしたい。残業が減れば年収も減る。基本給が低いままでは、この矛盾から抜け出せません。
それでも病院に残る価値がある人
ここまで構造の話をしてきましたが、私は「病院薬剤師は今すぐ辞めるべき」とは思っていません。病院には病院にしかない価値があります。
自分の時間やお金よりも、知識や、病院でしかできない活動に意欲と目的がある人。急性期の臨床、チーム医療、認定・専門薬剤師への道。これらに本気で打ち込みたいなら、病院はかけがえのない環境です。実際、私自身も病院で得た経験が今の薬局業務の土台になっています。
問題なのは、「なんとなく」残ってしまうこと。目的があって残るのと、選択肢を知らずに残るのとでは、同じ「残る」でも意味がまったく違います。
構造から抜け出す選択肢
もしあなたが「時間」や「収入」を優先したいなら、病院の外には別の構造があります。私は病院を辞めたあと、派遣薬剤師を経て中小の調剤薬局に転職し、年収は500万円から900万円になり、残業は月50時間から10時間未満になりました。詳しくは体験談に書いています。
大事なのは、いますぐ辞めることではなく、「自分には選択肢がある」と知っておくことです。選択肢を知ったうえで病院に残るなら、それはもう消去法ではなく、あなたの意思です。
参考:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」/ 年収・初任給の水準は調査年・集計方法により変動します。本文中の私の数字は個人の一例です。